家族信託は、自分の財産を家族に託して管理してもらう制度です。高齢になったときや病気で判断能力が衰えたときに、自分の財産を家族に託すことで、安心して老後を過ごすことができます。家族信託を検討する際に、契約書を公正証書にするかどうか悩む方も多いのではないでしょうか?
公正証書にするには費用や時間がかかりますが、公正証書にすることで得られるメリットもたくさんあります。この記事では、家族信託契約書を公正証書にするメリット・デメリットや、公正証書を作成する流れ、費用について詳しく解説します。家族信託を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
家族信託で公正証書を作成するメリット
家族信託の契約書を公正証書にするメリットは、大きく分けて以下の5つがあります。
トラブル回避:契約内容の認識を共有し、紛争を防ぐ
公正証書は、公証人が作成した公文書のため、契約内容の認識違いによるトラブルを回避できます。公正証書を作成する際には、公証人が当事者の前で契約内容を読み上げてくれます。公正証書を作成せずに家族だけで契約書を作成した場合、契約内容の認識にずれが生じてしまう可能性があります。例えば、信託財産の範囲や管理方法、受益者の範囲などで、家族間で認識の違いが生じ、後にトラブルに発展してしまうケースがあります。
公正証書を作成することで、公証人が契約内容を読み上げるため、家族全員が同じ内容を理解した上で契約を締結できます。そのため、後になって「こんなはずじゃなかった」というような認識の違いによるトラブルを防ぐことができます。
証拠力強化:契約の有効性を証明する証拠力が高い
公正証書は、私文書よりも証拠力が高く、契約の有効性を証明する力が強いため、トラブル発生時に有利に働く可能性があります。公正証書は公証人が作成した公文書であるため、私文書よりも高い法的効力を持ちます。例えば、家族信託契約の有効性をめぐって、他の相続人から異議を唱えられた場合、公正証書があれば、契約の有効性を証明する強力な証拠となります。もし、公正証書で作成していなければ、契約の有効性を証明するために、他の証拠を提出する必要が生じます。しかし、他の証拠だけでは、公正証書ほどの証拠力はないため、不利な状況に追い込まれる可能性があります。
原本保管:紛失や改ざんの心配なく、公証役場に保管
公正証書は、公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません。公正証書を作成した場合、原本は公証役場に保管され、当事者には正本と謄本と呼ばれる写しだけが渡されます。そのため、当事者が公正証書を紛失しても、公証役場で再発行してもらうことができます。
公正証書を家族だけで保管した場合、紛失したり、改ざんされたりする可能性があります。特に、家族信託は長期間にわたって有効な契約であるため、保管期間が長くなります。そのため、保管中に紛失したり、改ざんされたりするリスクが高まります。公正証書を公証役場に保管することで、このようなリスクを回避できます。
再発行:紛失した場合でも公証役場で再発行が可能
公正証書は、紛失しても公証役場で再発行できます。公正証書は公的な書類であり、公証役場に原本が保管されているため、紛失しても再発行が可能です。そのため、公正証書を紛失した場合でも、安心です。
もし家族だけで作成した私文書を紛失した場合、再発行することはできません。再発行できないため、契約内容を証明することが難しく、家族信託が有効に機能しなくなってしまいます。
信託口口座開設:金融機関との取引がスムーズ
公正証書で家族信託契約書を作成することで、信託口口座の開設がスムーズになります。信託口口座は、家族信託で受託者が信託財産を管理するために開設する専用の口座です。信託口口座を開設するには、ほとんどの金融機関が公正証書による家族信託契約書の提出を求めています。そのため、公正証書で作成しておくことで、信託口口座の開設をスムーズに行うことができます。
もし公正証書で作成していない場合は、信託口口座を開設できない可能性があります。信託口口座は、信託財産を管理する上で重要な役割を果たすため、公正証書で作成しておくことをおすすめします。
家族信託で公正証書を作成するデメリット
家族信託の契約書を公正証書にするデメリットは、主に以下の2つです。
費用:公正証書の作成費用が発生する
公正証書を作成するには、公証人の手数料が必要です。公証人の手数料は、信託財産の評価額によって異なります。公正証書の作成費用は、信託財産の評価額によって異なり、数万円から数十万円かかる場合もあります。そのため、費用を抑えたい場合は、公正証書ではなく、家族だけで作成する私文書という選択肢も考えられます。
時間と手間:公証人との打ち合わせや手続きに時間がかかる
公正証書を作成するには、公証人との打ち合わせや手続きに時間がかかります。公正証書の作成には、公証人との複数回の打ち合わせが必要になります。また、公証役場に出向いて、公正証書の作成手続きを行う必要もあります。そのため、公正証書を作成するまでに、数週間から数ヶ月かかる場合もあります。公正証書を作成する時間は、家族だけで作成する私文書よりも、どうしても多くかかってしまいます。すぐに家族信託を始めたい場合は、時間がかかる公正証書ではなく、家族だけで作成する私文書という選択肢も考えられます。
公正証書で信託契約書を作成した方が良いケース
家族信託の契約書を公正証書で作成した方が良いケースは、主に以下の2つです。
不動産や株式など高額な財産を信託する場合
不動産や株式など、高額な財産を信託する場合には、トラブル発生のリスクを考慮し、公正証書で作成することをおすすめします。高額な財産を信託する場合、トラブルが発生したときの損失が大きくなります。そのため、トラブルを回避するために、公正証書で作成しておくことが重要です。また、信託財産が不動産や株式などの場合は、信託口口座を開設する際に、金融機関が公正証書による信託契約書の提出を求めるケースがあります。
相続人が複数名おり、トラブル発生のリスクが高い場合
相続人が複数名いる場合は、相続をめぐるトラブルが発生するリスクが高いため、公正証書で作成しておくことをおすすめします。相続人が複数名いる場合、相続人全員が家族信託の内容に納得していないと、後にトラブルに発展する可能性があります。公正証書で作成しておけば、契約内容が明確になるため、トラブルを未然に防ぐことができます。
家族信託契約書を公正証書で作成する手順
家族信託契約書を公正証書で作成する手順は、以下の通りです。
専門家に相談:家族信託の内容を決定
まず、家族信託の専門家に相談し、家族信託の内容を決定します。家族信託は複雑な制度のため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。専門家と相談することで、家族信託のメリット・デメリットを理解し、家族にとって最適な家族信託の内容を決定することができます。専門家には、弁護士、司法書士、税理士などがいます。
公証人と面談:公正証書の作成内容を検討
家族信託の内容が決定したら、公証人と面談し、公正証書の作成内容を検討します。公証人は、法律の専門家であり、公正証書の作成に精通しています。公証人と相談することで、公正証書にどのような内容を記載すべきか、どのような点に注意すべきかを理解できます。
公正証書の草案確認:契約内容を確認
公証人との打ち合わせに基づいて、公正証書の草案が作成されます。作成された草案の内容をよく確認し、家族全員が納得できる内容になっていることを確認しましょう。草案の内容に誤りや変更点がある場合は、公証人に修正を依頼します。
公正証書の作成:公証人立ち会いのもと作成
公正証書の草案の内容に問題がなければ、公証人立ち会いのもと公正証書を作成します。公正証書の作成には、委託者と受託者の両方が公証役場に出向く必要があります。公証役場では、公証人が本人確認を行い、契約内容を読み上げてくれます。契約内容に誤りがないことを確認したら、委託者と受託者が公正証書に署名・押印します。公証人も署名・押印し、公正証書の作成は完了です。
正本・謄本交付:作成した公正証書を受け取る
公正証書が作成されたら、公証役場から正本と謄本が交付されます。正本は、委託者と受託者が保管する原本です。謄本は、必要に応じてコピーとして使用できるものです。これで、家族信託の公正証書の作成手続きは全て完了です。
家族信託の公正証書作成にかかる費用
家族信託の公正証書作成にかかる費用は、公正証書作成費用と専門家への依頼費用があります。
公正証書作成費用:公証役場の手数料
公正証書作成費用は、公証役場の手数料で、信託財産の評価額によって異なります。信託財産の評価額が1億円以下であれば、公正証書作成費用は4万3,000円以下です。信託財産の評価額が1億円を超える場合は、評価額に応じて手数料が加算されます。
専門家への依頼費用:専門家への報酬
家族信託の専門家に依頼する場合、専門家への報酬が発生します。専門家への報酬は、専門家の経験や実績によって異なりますが、10万円から20万円程度が相場です。専門家に依頼すると、家族信託の内容を検討する段階から、公正証書の作成手続きまで全てサポートしてもらえます。そのため、家族信託の手続きをスムーズに進めたい場合は、専門家に依頼することをおすすめします。
家族信託の専門家への相談
家族信託の専門家には、弁護士、司法書士、税理士などがいます。専門家に相談することで、家族信託の内容を検討したり、公正証書の作成手続きをサポートしてもらったりすることができます。家族信託の専門家を選ぶ際は、以下の点に注意しましょう。
契約内容の確認
家族信託の専門家は、家族信託の契約内容が適切であるかどうかを確認してくれます。特に、家族信託は、法律の知識が必要なため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
手続きのサポート
家族信託の専門家は、公正証書の作成手続きをサポートしてくれます。公正証書の作成手続きは、公証人との打ち合わせや書類作成など、複雑な手続きが多数あります。専門家に依頼することで、手続きをスムーズに進めることができます。
まとめ
家族信託の契約書を公正証書にするかどうかは、信託財産の規模や家族の状況などによって判断する必要があります。公正証書には、トラブル回避や証拠力強化などのメリットがありますが、費用や時間がかかるというデメリットもあります。この記事を参考にして、家族にとって最適な選択をしてください。